危うい関係
 日が当たるフカフカなベッドの上。
彼は右手の甲で額の汗を拭い、息を整えながらゆっくりと薄目を開けた。
僕は彼の愛が詰まったティッシュを丸めてゴミ箱へ投げ入れ、それから逞しい腕を枕にして拓ちゃんに寄りそった。
その時拓ちゃんの胸には、薄っすらと汗が光っていた。そして彼の柔らかい髪は、お日様の匂いがした。
「上手だったよ。ありがとう」
彼はちょっと照れくさそうにそう言って、僕のおでこにキスをしてくれた。
彼の渇いた目には僕だけが映し出され、短く刈り上げた髪は太陽の日差しを浴びて白く輝いていた。
拓ちゃんは僕の口の中で果てた後、いつも恥ずかしそうに頬を染めてじっと僕を見つめる。
もう何百回も同じ事を繰り返しているのに、彼はいつまでも恥じらいを忘れない。
「お前にも同じ事をしてあげるよ」
このセリフは、いつものワンパターンだ。
彼はきっとこの後僕を強く抱きしめ、それからふとんに潜って大きくなっている僕自身にキスをする。
でも今日の彼は、ここからのパターンがいつもと違っていた。
拓ちゃんは僕の髪にそっと触れながら、長々と僕の目を見つめ、それから突然最初の日の事を言い始めた。
「お前さ……あれ、わざとやったのか?」
そう言う彼の目は笑っていた。僕は彼が何を指してそう言っているのかすぐに分かった。
あれは2年前の夏の出来事だ。その夏1番の暑さだったあの日、僕らは初めて結ばれた。

*   *   *

 あの頃僕はまだ中学2年生だった。そして拓ちゃんは高校へ入学した年だった。
拓ちゃんはその1年前に僕の家の近所へ引っ越してきて、それ以来僕らはすごく仲良しだったんだ。
僕は彼がダイスキだった。そして彼の方も絶対に僕の事がスキだと信じていた。
僕はあの頃、拓ちゃんの口からはっきり 「スキ」 と言われる日を待ち望んでいた。そして彼とキスする事を夢見ていた。
僕らはたしかに相思相愛だった。お互いにはっきりと気持ちを打ち明けた事はなかったけど、そんな事は言わなくても分かっているはずだった。
でも、それは拓ちゃんが高校へ入学する前までの話だ。
彼は新しい環境で新しい友達を見つけると、しだいに僕を遠ざけるようになっていった。
僕は今よりずっと子供だったから、彼の態度がどうして変わってしまったのか全然理解できなかった。
僕の気持ちはそれまでと変わらず真っ直ぐ彼に向かっていた。なのに彼は僕よりも新しい友達を優先し、しかもあの日の彼は僕との決別宣言とも言える事実を口にして、小さな僕のハートを粉々にした。
たしかにあの頃の僕には何もなかった。僕が持っているものは純粋に彼をスキだという気持ちだけだった。
あの時の気持ちは、今でも忘れる事ができない。
拓ちゃんは知らないと思うけど、僕は今でもあの時の事を思い出すとすぐに泣く事ができる。 でもそれは、僕がそれだけ強く彼を愛している証拠だ。

 8月。土曜日の午後。あの日は絶好の行楽日和だった。
真っ青な空には入道雲が浮かび、お日様が街全体を明るく照らしていた。
それなのに拓ちゃんは、自分の部屋にこもってぼんやりとテレビを見つめていた。お日様に背を向け、畳の上に足を伸ばして。
「ねぇ拓ちゃん、外へ遊びに行こうよ」
僕は拓ちゃんの隣に腰かけ、彼の手をつかんで何度もそう言った。
外から入り込む日差しはとても温かくて、畳の床はホットカーペットのようにポカポカしていた。 でもエアコンが効いていたせいで、拓ちゃんの部屋はとても涼しかった。
「嫌だ。外は暑いもん」
彼は僕の顔もろくに見ず、ボソボソとそう言うだけだった。
でも僕はその返事に納得ができなかった。拓ちゃんは外で遊ぶのが大好きだったからだ。 僕らは夏でも冬でもよく2人で外へ出かけていた。
そんな彼がどうして急に出不精になってしまったのか、僕にはその訳が全然分からなかった。 でも彼は、出不精になったわけではなかったんだ。
「じゃあ、ゲームしようよ。新しいゲームソフトを買ったんでしょう?」
僕は結局彼の希望を尊重し、外へ出かけるのを断念した。でも、部屋の中でゲームをするなら問題ないはずだ。 僕はそう思い、テレビの横に並べて置いてあるゲーム機をじっと見つめた。
「俺、これから出かけるんだ。悪いけどお前に構ってる時間はないんだよ」
拓ちゃんにそう言われた時、僕はもう泣き出しそうになっていた。
だったら最初からそう言ってほしかった。僕はその日、拓ちゃんと遊ぶために友達からの誘いを断わっていたんだ。

 それからしばらく、殺風景な部屋の中に沈黙が流れた。
テレビの中では若手芸人がつまらないギャグを言っていた。それなのに、拓ちゃんはそのつまらないギャグを聞いてフフッと笑っていた。
僕はふとテレビの上に飾られている卓上カレンダーに目をやった。 8月はもうすぐ終わってしまうから、カレンダーはすでに9月の暦に変わっていた。
僕は10日の日付に赤丸が付いている事を知り、それはいったい何の印なのかと疑問に思った。 あの時僕がカレンダーを見なかったら、もしかして僕らの運命は変わっていたんだろうか。
「拓ちゃん、9月10日に何かあるの?」
僕がそう問いかけると、彼がやっと僕を見てくれた。
拓ちゃんは隣に座る僕を笑顔で見つめていた。それは僕の不安をかき消すような、とっても優しい笑顔だった。
でも彼が次に口にした言葉は、僕を打ちのめすのに十分なインパクトがあった。
「俺さ、彼女ができたんだ。9月10日はその子の誕生日だよ」
僕は言葉を失い、長い間じっと彼の顔を見つめていた。
拓ちゃんは、すごくいい顔で笑っていた。一重の目がキラキラと輝き、薄い唇は端の方がきゅっと上がっていた。 そして彼は、恥ずかしそうに頬を染めてそっと長い前髪をかき上げた。
僕は拓ちゃんがスキだから、彼の前で不平不満を口にしたくはなかった。
でも、彼は高校へ入学して以来僕に対して何度も小さな裏切りを重ねていた。 約束をすっぽかしたり、電話すると言ったくせにそれをしなかったり。
そしてそういう事は、数ヶ月前まではあり得ない事だった。
僕はきちんと約束を守ってくれる彼がスキだったし、決して僕を裏切らない彼がスキだった。 約束を守らず、僕を裏切るような彼なんか、大嫌いなはずだった。
それなのに、約束を破られても、何度も裏切られても、僕は彼の事が嫌いになれなかった。
あの時、僕に泣く権利はなかったんだろうか。
だって僕らは、一度もお互いの気持ちを確かめ合った事がなかった。 たしかに言わなくたって相思相愛である事はよく分かっていたけど、僕らの関係はどちらかが 「そんなつもりはなかった」 と口にすれば、すべて崩れてしまうほど危ういものでしかなかった。

 あの時、僕には泣く権利なんかなかったのかもしれない。
でも権利がどうとか言う前に、もう僕の目から涙が溢れていた。
そんなの僕の勝手だと言われてもしかたがないけど、その時の僕にとっては拓ちゃんがすべてだった。 僕にとって拓ちゃんを失う事は、すべてを失う事と同じだった。
あっという間に彼の顔が涙で滲み、あっという間に頭の中が熱くなった。
僕は膝を抱えて、顔を伏せて、ただひたすら涙を流し続けた。温かい畳の上には、僕の涙がポツポツと雨のように降り注がれた。
そして次の瞬間、拓ちゃんはずるいと僕は思った。
僕をそこまで突き放すなら、もう放っておいてくれればいいのに、彼はその後僕を抱き寄せたんだ。
拓ちゃんは、僕の前ではずっといい人でいたかったんだ。そして優しいお兄さんでいたかったんだ。
そんな拓ちゃんはすごくずるくて、本当に嫌なヤツだと思った。
なのに、それでも僕は彼の事を嫌いになれなかった。

 「あれ、わざとやったのか?」
彼は今、笑いながらそう言った。
彼にとって、あれはもう笑い話なんだろうか。僕はあの時の事を思うと、今でもすぐ泣けるというのに。

 あんな事をわざとやるなんて、僕はそんな業は持ち合わせていなかった。
あの時の僕の気持ちは、拓ちゃんには絶対に分からない。
僕はずっと、何があっても彼の事がスキだった。ただの一瞬だって、彼の事を嫌った覚えなんかない。拓ちゃんは、一度も僕を失った事がない。
そんな拓ちゃんに、あの時の僕の気持ちなんか分かるはずがない。
あの後どうしてあんな事になってしまったのか、僕は自分でもよく分からない。
ただ僕は、彼を失った事に大きなショックを受けていた。
そしてもう何もかもが嫌になって、すべての事がどうでもよくなって、僕の脳は考える事を停止してしまった。
僕が覚えているのは、耳に聞こえていたのが、自分の泣き声だけだった事。そして僕を抱き寄せる拓ちゃんの手が、すごく冷たく感じた事。
僕はあの時、強い尿意を感じた覚えなんかなかった。
だけど気が付くと、いつの間にか畳の上に水たまりができていた。僕は俯いて泣きながら、膝の下で広がっていく水たまりを、唖然として見つめていた。
その時僕は、その水たまりをこしらえたのが自分である事すらまるで自覚していなかった。
「あぁ……どうしたの?」
畳の上に広がる水たまりを発見した時、拓ちゃんは僕以上に動揺していた。
僕は彼の声を聞いて、やっと自分がおもらしした事に気が付いた。でもだからといって、特別なんの感情も生まれてこなかった。
その事によって感情が変化したのは、どちらかといえば拓ちゃんの方だった。
「ほら、立って」
拓ちゃんは僕を抱えるようにして立たせ、まだ泣き止まない僕の顔を見下ろした。
彼はその時、すごく心配そうな目で僕を見つめていた。さっきまで冷たかった彼は、何故だか急に優しくなった。
「大丈夫だよ。今脱がせてあげるから」
拓ちゃんは優しくそう言って畳の上にしゃがみ込み、急いで僕のベルトを外してくれた。 僕はその時、水たまりが畳の下に沈んでいく様子を、ぼんやりと眺めていた。

 彼が僕のパンツを脱がせようとした瞬間、体に電気が走って思わずビクッとした。 それは拓ちゃんの指が、小さな僕自身に触れたからだった。
僕は彼の指がどんなふうに触れたのか、よく見ていなかった。だからそれが偶然だったのか必然だったのかすら、よく分かっていなかった。
でも拓ちゃんは、彼の指に僕が反応した事をちゃんと分かっていた。
「気持ちいい?」
拓ちゃんはそう言いながら、あっさりと僕の下半身を丸裸にした。
彼は畳の上にしゃがみ込んだまま、膨らみかけた僕自身を観察し、右手の指でそれに触れた。
すると、また体に電気が走った。
「もっとしてほしい?」
拓ちゃんはその時、すごく優しかった。彼は僕の両手をそっと握り、笑顔で僕の顔を見上げた。
僕はダイスキな一重の目を見下ろした時、どうしても彼を失いたくないと思った。
そして僕はその時、どうすれば彼を繋ぎ止めておけるか必死に考えた。
僕が彼にしてあげられる事。それは、たった1つしか思い浮かばなかった。

 「拓ちゃん、スキだよ」
僕はそう言って、彼の手を強く握った。そしてその手を離さずに、すぐ彼をベッドへ連れ込んだ。
あの日はとても暑く、お日様をいっぱい浴びたベッドは、今日と同じように温かくてフカフカだった。
あの頃の僕はすごく華奢で、体格は拓ちゃんよりずっと劣っていた。
それでもがんばって彼をベッドへ押し倒すと、拓ちゃんはされるがままになっていた。
ベッドの上で仰向けになった彼は、優しい目で僕を見上げていた。そっと頬に触れた彼の手は、もう冷たいとは感じなかった。
拓ちゃんの部屋はエアコンが効いていたけど、僕の体は熱かった。
僕はTシャツを脱ぎ捨て、本当に丸裸になった。そして今度は、拓ちゃんが着ていた白いシャツの前ボタンを、ゆっくりと外していった。
拓ちゃんはその間まったく抵抗せず、じっと僕の顔を見つめていた。
外から入り込むお日様の光が、危うい僕らを静かに照らしていた。そして乾いた風が、拓ちゃんの前髪を揺らしていた。
やがて僕は彼のシャツをはぎ取り、できるだけ遠くに投げてやった。
その時拓ちゃんの胸には、薄っすらと汗が光っていた。そして胸の突起は、ツンと立ち上がっていた。
拓ちゃんはちょっと恥ずかしそうに頬を染めて、前髪をかき上げる仕草を見せ、それからゆっくりと目を閉じた。
僕はその後、夢中でその行為に没頭した。

 拓ちゃんの首筋にキスをした後、胸の突起を舌の先で舐めると、彼が小さく声を上げた。
実際に僕たちが触れ合うのは、その日が初めてだった。でも僕は、初めてだという意識がまるでなかった。 それは、いつも夢の中で拓ちゃんと愛し合っていたからだ。
でも現実の拓ちゃんは、夢の中の彼とは少し違っていた。
夢の中ではいつも彼の方が主導権を握っていたけど、その時は間違いなく僕の方が彼をコントロールしていた。
拓ちゃんは、右よりも左の乳首の方が敏感だった。僕が左の乳首を舐めてやると、彼は頭をかきむしりながら何度も大きく声を上げた。
あの時の拓ちゃんは、すごく素敵だった。 お日様に照らされて白く光る髪や、上ずった声。僕はあの時、そのすべてを自分のものにしたいと思っていた。 そして、絶対自分のものにできると確信していた。
僕は彼の乳首を舌の先で転がしながら、ついに彼自身に触れた。
その時拓ちゃんはウエストの緩いズボンをはいていて、僕の手はあっさり彼のものに辿り着く事ができた。
「あっ……あぁ……」
拓ちゃんは、すぐ僕の指に反応した。
僕はその時すごく興奮していた。指に触れる彼自身がとても硬くなっていて、しかも微かに濡れていたからだ。
僕が素早く指を動かすと、彼はそれまで以上に大きな声を上げた。そして僕の指は、ますます濡れていった。
「気持ちいい?」
僕は彼を見下ろし、そう問いかけた。すると拓ちゃんは、返事をする代わりに僕を抱き寄せ、濃厚なキスをしてくれた。
口の中で僕らの舌が絡み合った時、あまりにも気持ちがよくて頭の中が真っ白になった。それでも僕は彼を完全に手に入れるまで、もっともっとがんばらなければならないと思っていた。
僕は更にキスを求める彼を振り切り、両手で拓ちゃんのズボンを一気に脱がせた。
明るい日差しの下に晒された彼のものは、大きく膨らんでいて、そして微かに光っていた。
それから僕は、迷わず彼のものにかじりついた。
舌の先で彼自身をもてあそぶと、拓ちゃんは外へ聞こえてしまいそうなほど大きな声を上げ、腰を浮かせてもっと舐めてくれと要求した。
「あぁ……!」
彼の上ずった声が、僕をひどく興奮させた。
僕にできる事はこれしかないと思っていた。拓ちゃんを繋ぎ止めておくためには、こうするしかなかった。
僕は彼を手に入れるためなら、どんな事だってする覚悟ができていた。

*   *   *

 「なぁ、本当はわざとやったんだろう?」
彼は枕に頬を乗せて微笑みながら、もう一度そう言った。
あんな事をわざとやるなんて、僕はそんな業は持ち合わせていなかった。
ただ僕の潜在意識のどこかに、こういう思いが刷り込まれていた気がする。
『拓ちゃんは、とってもかわいそうな僕を放っておく事ができない』
僕はあの時悲しくて泣いた。そして僕は無意識におもらしした。
でもそれはもしかして、かわいそうな自分を演じるためだったのかもしれない。 自分では意識していなかったけど、本当はそうだったのかもしれない。

 僕は日差しに照らされる彼の顔を見つめ、ほんのり赤くなった頬に右手を当てた。
僕のダイスキな一重の目は、真っ直ぐに僕だけを見つめていた。そして僕の手に重なる彼の手は、とても温かく感じた。
僕はあの頃より少し大人になって、昔よりは人の気持ちが分かるようになった。
そうなった今、僕は拓ちゃんに聞いてみたい。
『あの時彼女ができたって言ったのは、本当だったの?』
でもこれを率直に聞くのは、少しつまらないと思った。
僕が本当に聞きたいのは、決してこんな事ではない。
彼があの時そう言ったのは、僕の気持ちを確かめるためだったんだろうか。僕が本当に彼に聞きたかったのは、その事だった。
拓ちゃんは、きっともう僕から離れられない。彼は決して僕の舌の感触を忘れる事ができない。
自信を持ってそう言える今、僕はちょっとだけ彼に意地悪をしてみたくなった。
「拓ちゃん」
「何?」
あの時の彼は、僕が何を言っても気のない返事ばかりを繰り返した。でも今の彼は、僕の言葉にすぐ反応してくれる。
「僕、同じクラスの女の子に告白されたんだ」
僕がそう言うと、彼の顔色がにわかに曇り始めた。
僕はあの頃より少し大人になった。背も伸びたし、声も変わったし、時々すれ違う女の子が僕を振り向くようになった。
僕は今でも拓ちゃんがスキだ。でもだからといって、彼にはあまり安心してほしくない。
いつも同じパターンで、僕が満足すると思ってほしくない。
たまには全然違う彼に変身して、もっと僕をドキドキさせてほしい。
「その子には……ちゃんと返事をしたんだろう?」
少し不安げにそう言う拓ちゃんの声がスキ。僕はもっともっとその声が聞きたくて、つい意地悪を重ねてしまう。
「まだ迷ってる」
僕が短くそう答えると、さっきまで渇いていた拓ちゃんの目が、微かに潤んだ。でも、まだ足りない。
あの時の僕の気持ちは、拓ちゃんには絶対に分からない。 僕はずっと、何があっても彼の事がスキだった。ただの一瞬だって、彼の事を嫌った覚えなんかない。拓ちゃんは、一度も僕を失った事がない。
そんな拓ちゃんに、あの時の僕の気持ちなんか分かるはずがない。

 「なぁ、俺の事がスキだろう?」
彼は頬の上で重ねた僕の手を、強く握ってそう言った。でも僕は、それには答えなかった。
「ねぇ、スキだって言って」
僕は不安そうな目でそう言う彼に、心の中で言い返した。
『僕にスキって言ってほしいなら、ちゃんと自分の力で言わせなよ』
その声が彼の心に届いたかどうかは分からない。だけど、その後の彼はすごく情熱的だった。
彼はすぐふとんに潜って、僕の先端にキスをした。それはとても丁寧なキスで、彼の愛が感じられた。
彼の舌が、いつもより素早い動きを見せる。狂おしいほどの快感が、急激に体中に広がっていく。
僕はきつく目を閉じて、その快感を全部受け止めた。でも、まだ瞼の向こうに太陽の光を感じる。
彼にはもっと激しく愛してほしい。太陽の光なんか忘れてしまい、頭の中が真っ白になるほどに。
「ん……」
僕が小さく声を上げると、手応えを感じた拓ちゃんの舌が、更に激しい動きを見せた。
今日はこのへんで許してやろう。
僕はそう思い、ふとんの上から彼の頭をなでてやった。そして彼の舌に、僕の愛をたっぷり味わわせてあげた。

 拓ちゃんには、絶対に安心してほしくない。これからもずっと一緒にいたいから、絶対に僕を飽きさせないでほしい。
僕らの関係はこれからもずっと、どちらかが 「そんなつもりはなかった」 と口にすればすべて崩れてしまうような、そんな危ういものでありたい。
END

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