ブラザーコンプレックス
 今日は大学の講義が長引いて、少し帰りが遅くなってしまった。俺は急いで駅へ走り、すぐに帰りの電車に飛び乗った。
車両の隅に空席を見つけて、静かに座ると眩しい夕日に幻惑された。
こんな時は、あの日の事を思い出す。弟が産まれた日、夕焼け空が赤かった。
俺はあの空を見上げて、大きな幸せを感じていた。自分がお兄ちゃんになった日の喜びを、今までずっと忘れた事はなかった。
だけど義人は、俺の弟に産まれて幸せだったんだろうか。
最近俺は、しょっちゅうそんな事を考えるようになっていた。


 電車を降りて駅の改札を出ると、早足で家路に着いた。
商店街を歩く間は誘惑が多い。美味しそうなたこ焼きの匂いとか、ケーキ屋の看板が、寄り道を促しているように思えてならなかった。
本当は弟にお土産を買って帰りたいところだけど、今はとにかく家へ急いだ。
自宅のマンションは、駅から歩いて5分ほどの距離だった。
エントランスに足を踏み入れると、すぐにエレベーターに乗り、7階のボタンを押して上昇する。そしてその間に、鞄の中から家の鍵を取り出して手に持った。
弟のためにこれほど急ぐ自分が、少し滑稽に思えた。それでもやっぱり、気が逸る。
やがてエレベーターが止まり、スッと静かにドアが開いた。 そこから右へ進み、素早く家の鍵を開けて、玄関に入り込む。
するとすぐに、リビングの方から小さな足音が聞こえてきた。黒いルームウェアを着た義人が、急いで俺に駆け寄った。
「お兄ちゃん、おしっこ」
彼は切羽詰まっている様子だった。待ちくたびれたような顔をして、体を大きく揺らしている。
「ねぇ早く。漏れちゃうよ」
小さな手が、左の腕を引っ張った。俺は慌てて靴を脱ぎ、弟をトイレに連れて行こうとした。
だけど結局間に合わなかった。靴を脱ぐのとほとんど同時に、義人はおもらししてしまったのだった。
よく磨かれた床の上に、水たまりが広がった。ジャーッという音が玄関に響き渡り、ツンとした香りが辺りに立ち込める。
彼が作り出す水たまりは、鏡のように光っていた。それは誰の姿も映す事のない天然の鏡だった。
義人のズボンが濡れて、頬も濡れた。
弟が泣き出して、心がすごく乱れた。すぐに抱きしめたくて手を伸ばしたのに、その手はあっさり拒まれた。
彼は俺の手を払い除け、目に大粒の涙を浮かべながら、掠れる声で訴えた。
「お兄ちゃんがいけないんだよ。義人が待ってるの知ってるくせに、帰って来るのが遅いんだもん」
「ごめん。本当にごめん」
「義人なんかいない方がいいと思ってる?」
「そんな事言わないでくれ。お兄ちゃんはお前を大事に思ってるよ」
「本当? 義人の事好き?」
「もちろん大好きだよ」
涙をいっぱいためた目を、両手でゆっくり擦る。桜色の唇は、微かに震えている。そっと頭を撫でてやると、すがるように俺にしがみついてくる。
こんな時の彼は、とても弱々しく見えた。
小さくて、泣き虫で、無類の甘えん坊。そんな弟の姿を知っているのは、俺だけだった。

 義人は13歳。今は中学1年生だ。俺とは7歳年が離れている。
俺は小さい頃から、弟の世話を進んでやってきた。
おむつを交換したり、抱っこしたり、お風呂に入れたりするのも当たり前にやっていた。弟をいじめる奴がいると、必ず仕返しをしてそいつを泣かせてやった。
いろいろと大変な事はあったけど、義人の面倒を見るのはちっとも苦にならなかった。
一緒にいる時間が楽しくて、少しずつ成長していく様子を間近で見られるのが、すごく嬉しかったからだ。
だけど俺は、彼を甘やかしすぎた。それについては、少し反省している。
弟は未だに俺がいないとトイレにも行けない。とにかく家では、1人じゃ何もできない。
だから今日も、急いで家に帰ってきた。早く帰ってトイレに行かせ、遊んでやらないと可哀想だからだ。
でも本当は知っている。
彼は毎日学校へ行って、パンツを濡らさず帰って来る。つまり外では、ちゃんと1人でトイレに行っているはずなんだ。
それなのに、家で2人きりになると、途端に甘えて赤ん坊のようになってしまう。
俺はそんな弟が可愛くて、いつも赤ちゃんごっこに付き合ってしまうんだ。

*   *   *

 バスタオルで水たまりを拭き取った後、義人の手を引いて寝室へ向かった。ぎゅっと握った小さな手は、少しだけ冷たかった。
大きな窓の向こうから、眩しい夕日がベッドを照らしている。
弟はやっと泣き止んだけど、頬には涙の痕が残っていた。団子鼻のてっぺんは、僅かに赤くなっている。
「さぁ、脱ぐぞ」
もう一度頭を撫でてやると、義人は気を取り直したように微笑んだ。大きな目は涙で洗われて、光が当たると透き通っているように見えた。
弟がバンザイをしたので、まずはトレーナーを脱がせてやった。薄っぺらな胸が露わになった時、ピンク色の乳首は立っていた。
ズボンはびっしょり濡れていて、股間を中心に前の方は色が変わってしまっている。
俺はそんなズボンをさっさと下げた。水を吸ったブリーフは、その後ゆっくり脱がせていった。
こうしておもらしの後始末をする時は、いつも心が躍る。俺にもまだ弟にしてやれる事があると思うと、すごくほっとするんだ。
小ぶりなペニスがとても可愛い。下腹部の毛は、まだ見当たらない。
弟はおしっこに濡れたズボンを部屋の隅に蹴飛ばして、俺の両手をぎゅっと握った。
今日から師走に入り、気温が急に下がった。だけど彼は、裸になっても震えたりはしなかった。
「お兄ちゃん、遊ぼうよ」
「何して遊ぶ?」
「気持ちいい事しよう」
上目遣いで、誘惑するように彼が言った。
こんな時の義人は、まるで娼婦のようだった。目にほんの少しだけ涙を残しておくのは、自分を美しく見せるための演出なのかもしれない。

 彼は俺の返事を待たずにベッドに飛び乗った。そして勢いよくカーテンを引くと、部屋の中が瞬時に薄暗くなった。
机もベッドも本棚も、薄闇の中で静かに佇んでいる。そんな中、俺の心臓だけがやかましく早鐘を打っていた。
「お兄ちゃんも、早くこっちへ来て」
義人は丸い尻を見せ付けるように、半身になって俺を手招きした。膝を立てて、唇を舐めて、待ち焦がれるようにそんな事を言うんだ。
「今行くから待てよ」
俺は少し焦らしてやろうと思い、わざとゆっくり洋服を脱いだ。セーターを脱ぎ捨て、ズボンを下ろす頃には、義人のペニスが巨大化していた。
ベッドまでは、ほんの3歩で辿り着く。俺は喜びを噛みしめながら、その距離を静かに歩いた。
「今日は僕が上になる」
ベッドの上で仰向けになると、弟は俺の上に跨がった。彼が動くと、伸ばしかけの髪がフワッと揺れた。
涙の乾いた目が、兄貴をじっと見下ろしている。刺すようなその視線には、弱々しさなど微塵もない。
さっきは赤ん坊のようにおもらししたくせに、義人はベッドの上で突然変貌を遂げるんだ。
赤ちゃんごっこはもう飽きた。ここからは、大人の娯楽を楽しもう。彼の目は、雄弁にそう語っていた。
「すぐにいい気持ちにさせてあげるよ」
囁くようにそう言って、義人が口元に笑みを浮かべた。
小さな手が熱い物に触れる。弟の手の中で、俺のペニスも巨大化していく。
細かな指の動きに、すごく感じてしまった。
義人は兄貴を絶頂へ導くために、一生懸命に愛撫してくれる。息を荒らげて汗をかきながら、薄闇の下で奉仕してくれるんだ。
小さな手が根元に触れ、真ん中あたりに触れ、念入りに先端を弄る。
パンパンに腫れ上がったペニスが、我慢できずに汁を垂らす。
微かなベッドの揺れが心地いい。壁にも振動が伝わっているのか、空色のカーテンも時々小さく揺れ動いていた。
俺は弟と遊ぶのが大好きだった。積み木遊びも、気持ちいい事も、ずっと2人でやってきた。
義人の目はとても優しい。まるで赤ん坊をあやす時のように、尊い物を見つめるような目をしている。
できればずっとその目を見ていたいのに、もうそんな余裕はなかった。
俺はすごく興奮して、義人の熱い物に手を伸ばした。すっかり硬くなったそれを指で擦ると、弟が大きく体を震わせた。
「義人の中で出したい」
冷静に希望を伝えたはずなのに、その声は上ずっていた。
揺らめくカーテンが頬を撫でる。義人が少し腰を浮かせる。
兄貴のペニスを穴に押し込むと、彼は泣き出しそうな顔をした。それは苦しいからじゃない。気持ちのいい遊びに酔っているだけだ。
俺は指を高速で動かして弟を愛撫した。すると彼も、腰を振ってやり返してくれた。
2人の喘ぎ声が、部屋中に響く。その声は常にシンクロする。
堪え切れない愛情が、遂に溢れ出てきてしまった。
義人の中で出した時、眩しい夕日が目の前に浮かんだ。俺がお兄ちゃんになった日に見た物と、まったく同じ夕日の色だ。
するとその時、胸に白い物が飛び散った。義人が降らせた温かな雪を、俺はしっかりと肌で受け止めた。
俺たちはよく似ているようだ。不思議といつも同時に果ててしまう。
1人じゃ何もできないくせに、2人になればこんな事ができる。それが俺たち兄弟だった。
義人はぐったりして、俺の横に倒れ込んだ。中途半端に伸びた髪は、すっかり乱れているようだった。
熱い息が、首元に吹きかかる。弟の息吹を側で感じると、心がすごく満たされた。
大人の遊びはこれでお終いだ。
窓の外には、夕焼け空が広がっているはずだった。
楽しい遊びの余韻を味わったら、2人で真っ赤な空を眺めよう。そしてその空の思い出を、初めて弟に話して聞かせよう。
俺の愛がどれ程の物なのか、もっともっと彼に知ってほしいから。


 俺は義人を溺愛している。本当は片時も離れたくない。少しでも弟の帰りが遅いと、心が穏やかではいられなくなる。
だから義人は、今日も急いで家に帰ってきた。早く帰って遊んでやらないと、兄貴が可哀想だからだ。
弟はとてもいい子に育ってくれた。
本当は1人でトイレに行けるくせに、俺がいないとできないフリをする。いつも赤ん坊に成りすまして、上手に兄貴を喜ばせる。
彼は既に、そんな事ができるほど成長していた。本物の赤ん坊だった頃を思い出すと、目覚ましい程の成長ぶりだった。
だけど弟は、俺を甘やかしすぎた。それについては、少し反省するべきだ。
義人の振る舞いが可愛くて、日に日に独占欲が高まっていく。
彼が巣立って行く事を、きっと俺は許さない。
何よりも義人を失う事が怖いんだ。彼が俺よりも大事な物を見つけたら、その時はもう正気ではいられなくなる。
だから時々不安になる。
俺の可愛い義人は、こうしてずっと兄貴と遊んでくれるだろうか。
彼は俺の弟に産まれて、本当に幸せだったんだろうか。
最近俺は、しょっちゅうそんな事を考えるようになっていた。
END

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