愛されすぎて
 あいつは俺をイライラさせる。今日も昨日もその前も、とにかくいつでもイライラさせる。
夏休みになったら、ずっと一緒にいられると思ってたのに。2人で海に行こうって約束したのに。
だから俺は、休みの初日から張り切っていたんだ。
早起きしてシャワーを浴びて、買ったばかりのシャツを着て、朝からバッチリきめていた。
あいつからおはようのメッセージが届いた時には、喜び勇んで返事をした。
今日はどうする?
ところがあいつは、夜なら会えると言ってきた。
空には太陽が輝いていて、その日は絶好の海日和だったのに。

 あいつは俺をダメにする。何をしても許してくれるから、どんどんわがままになっていく。
常に愛を確かめたくて、彼に辛く当たってしまう。
どこまで許してくれるのか、試してみたくなってしまうんだ。
でも今度はさすがにダメかもしれない。
あいつを乱暴に抱いて、冷たく突き放して、一方的に背を向けた。
次の日彼は、1日中待っても連絡をくれなかった。
俺はすごく後悔して、何度もメッセージを送ろうとしたんだ。
でも怖くてできなかった。彼に無視されるんじゃないかと思って、不安で不安でたまらなかった。
だけどこのままでは本当に終わってしまう。勇気を出して、謝らなくてはいけない。
さんざん考えてその思いに至ったのに、今度はスマホが壊れて使い物にならなくなってしまった。
彼に繋がる唯一のツールが、こんな時に限って機能してくれない。
なんだかすべての状況が、俺たちの終わりを示唆しているような気がした。

 悪い予感を抱きながら、やっとの思いであいつに電話をかけた。
だけどちっとも怒っている様子がなかった。
俺は拍子抜けした。今度は本当にダメかと思ってたのに、彼はいつも通りだった。
なんて寛大で、なんて強い人なんだろう。何があっても1人で消化して、俺に謝る隙を与えてくれない。
本当はもっと優しくなりたい。あいつを守ってやりたいという思いもある。
でもどっちもいらないと言われているような気がして、どうしてもイライラしてしまう。
そしてまた彼に辛く当たってしまう。
どこまで許してくれるのか、試してみたくなってしまうんだ。
END

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