青い夏の思い出
 夏休みも半ばにさしかかった今日、俺たちは初めてラブホテルへやってきた。
いつもなら誠を抱くのは俺の部屋と決まっていた。
だけどたまには雰囲気を変えてみようという事になり、今日は思い切ってホテルのゲートをくぐったのだった。
「ベッドが大きい!」
誠はホテルの部屋へ入るなりそう言ってはしゃぎ始めた。
外はすごく暑かったけど、部屋の中は冷房が効いていてかなり涼しかった。
広い部屋の中はブルーのライトで照らされ、1番奥にでかいベッドが置かれていた。
誠はすぐにベッドに飛び乗り、子供みたいにその上で何度もジャンプを繰り返していた。

 そこは本当にご機嫌な部屋だった。
ベッドの向かい側にはプラズマテレビが置かれ、冷蔵庫の中には缶ジュースがあり、テーブルの上にはスナック菓子まで用意されていた。
しかも部屋全体を照らすブルーのライトが幻想的な雰囲気をかもし出していて、俺たちはここへ来た瞬間から別世界の住人になったような気分に浸っていた。
「ねぇ拓也、どれを食べる?」
誠はひとしきりジャンプを繰り返した後、ベッドの端に座って紙袋の中のパンを物色していた。
今の時刻は午後1時。
俺たちはまだ昼ご飯を食べていなかったから、ここへ来る途中にパン屋で食料を調達してきたのだった。
「俺、メロンパンが食べたいな。拓也は?」
誠はカサカサと音をたてながらパンの入った四角い紙袋の中に手を入れた。俺はそんな誠の隣に座って、ふっくらした頬にキスをした。
すると彼は嬉しそうに笑って俺の顔を見上げた。 部屋の中はブルーのライトで照らされていたけど、誠の頬が桃色に染まっている事はすぐに分かった。
「拓也は何食べる?」
誠はそう言いながら俺にパンの入った紙袋を手渡した。
でも俺はその紙袋をすぐに放棄した。俺の食べたい物はその中にはなかったからだ。

 俺は昼ご飯を食べた後誠を風呂へ入れてやり、それから彼を抱くつもりでいた。
でも思いと裏腹に下半身がムズムズしてしまい、すぐに誠が欲しくなってしまった。
フカフカなベッドに彼を押し倒すと、誠もすぐその気になって俺にキスをねだった。 やっぱりこういう所へ来ると俺も誠も普段より興奮してしまうらしい。
誠の口に舌を突っ込んで彼のパンツに手を入れると、硬くなったものがすぐ手に触れた。すると俺はますます興奮してきた。
俺は彼の口を解放し、ちょっと乱暴に誠の洋服を脱がせていった。
誠のTシャツは汗で湿っていた。彼のパンツを膝のあたりまで下ろすと、誠は自分の足で蹴ってそれを脱ぎ捨てた。
俺は裸になった誠の姿をしげしげと眺めた。
ブルーのライトで照らされる細い体はいつもよりもっと綺麗に見えた。
その時、誠の目はきつく閉じられていた。
彼の肌はスベスベでとても柔らかくて、一度抱いたらきっと誰でも忘れられなくなる。
誠の乳首に爪を立てると、彼が一瞬息を呑んだ。
俺はもう本当に我慢ができなくなり、自分の肌にまとわりつく洋服を急いで全部脱ぎ捨てた。

 誠の両足を持ち上げて、ゆっくりと彼の中へ入っていく。
その瞬間の誠は唇を噛み締めて俺が動き出すのを待っていた。
「あぁ、あぁ!」
遠慮せずに彼の奥まで入っていくと、誠は出し惜しみせずに大きな声を上げた。
ふっくらした頬はますます紅潮し、長く伸びた髪が彼自身の手によってかきむしられる。
その時もう誠の硬くなったものは濡れて光っていた。
俺は誠を導くために彼の濡れたものを手でゆっくりとこすった。すると誠が更に大きな声を上げた。
「あぁ……ん!」
彼は似たような言葉を幾度か叫び、何度も細い体をくねらせた。 そして俺の手の中にあるものは火傷しそうなほど熱くなっていった。
誠の限界は、いつも突然やってくる。
次の瞬間いきなり彼の先端から白い液体が噴き出し、それが誠のへこんだお腹の上に飛び散った。
彼はこの時1番いい顔になる。ふっくらした頬や艶っぽい唇が1番輝くのはこの瞬間だ。
俺は彼の1番いい顔を見届けた後、静かに天国へと召された。
脱力して彼の体に覆いかぶさると、誠の小さな手が俺の髪をゆっくりと撫でてくれた。

*   *   *

 ホテルの小さなゴミ箱は、たった一度の情事が終わると使用済みのティッシュで一杯になった。
お互いに性欲を吐き出した俺たちは、セックスの後の余韻をいつも大切にしていた。
涼しい部屋の中にはエアコンの作動する音が小さく鳴り響いていた。
俺はでかいベッドの上で大好きな誠をそっと抱き寄せた。
彼は左の頬を枕に埋め、少し恥ずかしそうに微笑みながらじっと俺の目を見つめていた。 彼の一重の目はブルーのライトが当たって青く光っていた。
「拓也、大好きだよ」
「俺も誠が大好きだよ」
俺は彼の頬に手を伸ばし、小さな唇に短いキスをした。 誠はその後安心したように目を閉じて、すぐに眠りの世界へ引きずり込まれていった。
俺は彼が眠ってしまった後、しばらくベッドに寝そべってテレビを見ていた。
誠は俺の隣で気持ち良さそうにスースー眠っていた。
本当は彼を起こして一緒に風呂に入りたかったけど、あまりにも寝顔がかわいいからそのまましばらく寝かせてやる事にした。

 ラブホテルの休憩時間は2時間がタイムリミットだった。
俺はしばらくすると誠を起こさないようにそっとベッドを抜け出した。
俺は彼が眠っている間に風呂で汗を流し、その後に誠の寝込みを襲うつもりでいた。
テレビを消して静かに入口の方へ向かうと、その横に曇りガラスの入った大きなドアがあった。 そのドアをそっと押すと、これまたご機嫌なスペースが現れた。
白いタイル張りのバスルームはとても広くて、天窓から差し込む太陽が大きなバスタブを照らしていた。
俺はあまりに綺麗な風呂に嬉しくなり、冷たいタイルの上を歩いてすぐに長方形のバスタブへ近づいた。
蛇口をひねって温めのお湯をそこへ注ぎ込むと、広いバスルームに水の流れ出す音が大きく響いた。
天窓をそっと見上げると、青い空に浮かぶ白い雲と目が合った。 真っ白なバスタブに少しずつたまり始めたお湯は、空の色が反射して薄っすらと青く見えた。
バスタブにお湯が入るまで少し時間がかかりそうだったので、俺はその間にシャワーを浴びて体を洗う事にした。
なんだかとってもゴージャスな気分で、体中にせっけんを付ける時は知らず知らずのうちに鼻歌を歌っていた。
バスルームの中には白い湯気が充満し、俺の下手な鼻歌がいつまでも響いていた。
俺はその後、15分ぐらいはバスタブのお湯に浸かっていたんじゃないだろうか。
温めのお湯が気持ちよく、天窓から見上げる空があまりにも綺麗で、俺は少しの間そこがラブホテルである事を忘れていた。
でもある時ふと我に返って、タイムリミットの事を思い出した。そして俺は慌ててバスルームを出たのだった。

 せっかく金を払ってホテルへ来たんだから、もう1回ぐらい誠を抱きたい。
俺はそう思いながらタオルで適当に体を拭き、ふっくらしたバスローブを着てもう一度ベッドへ向かった。
床の上を静かに歩いて行くと、まず最初に誠の細い背中が見えた。
彼はいつの間にか布団を蹴ってしまったようで、白いカバーのかかった掛け布団は半分ベッドからずり落ちていた。
誠はその時、裸体を露にしていた。彼は横向きに寝ていて、未だに熟睡しているようだった。 俺はこっちを向いている小さな彼の尻を見つめ、なんとなく笑顔になった。
誠はその時、白いシーツの上に寝転がってブルーのライトに照らされていた。
本当はすぐに彼を起こして楽しみたかったけど、ベッドの傍らへ立った時、俺は重大な事実に気がついた。
誠は俺に背を向けて、キングサイズのベッドの端に寝ていた。 裸で横たわる彼も、真っ白なシーツも、すべてがブルーのライトで照らされていた。
だけどその時俺は見たんだ。彼の体の向こうにあるでっかい地図を。

 シーツの上に大陸を発見した時、俺は一瞬その場に立ち尽くした。
誠は俺が風呂へ入っている間に布団を蹴り、ベッドの上でたっぷりオネショしていた。
俺に背を向けている彼の顔をそっと覗き込むと、誠の目はまだしっかりと閉じられていた。 どうやら彼はまだ自分がオネショした事に気付いていないようだった。
俺はほっとしてベッドからずり落ちそうになっている掛け布団を持ち上げようとした。 彼が起きる前にシーツに布団をかけて地図を覆い隠そうと思ったからだ。
誠はオネショの癖がある事をずっと俺に隠していた。 そして俺は彼の意思を尊重し、これからもずっと何も知らないフリをしていてやろうと思っていた。
だけど、俺が掛け布団の端を持ち上げた時、誠がその気配に気付いて小さく声を上げた。
「ん……」
彼はその時、今にも目を覚ましそうな仕草を見せた。誠は眠そうに右手で両目をこすり、それから寝返りを打って突然仰向けになった。
その瞬間、俺は心臓がバクバクいっていた。誠はそんな俺の思いを知ってか知らずか、その後すぐに薄っすらと目を開けた。
「……拓也?」
誠は眠そうな目でベッドの傍らに立つ俺をぼんやりと見つめた。
彼が本格的に目を覚ます前に手を打たなければならない。
俺は瞬間的にそう判断し、すぐに誠の体の上に乗って彼に激しいキスをした。
「ん……ん……」
誠は寝起きにいきなり口を塞がれ、酸素不足を訴えるように俺の背中を幾度か叩いた。
俺はその間にずり落ちていた掛け布団を手で引っ張り上げ、やっとなんとかすぐ横に広がる地図を覆い隠す事に成功した。
誠の唇を解放すると、彼は何度か大きく息を吸って酸素を体に補給しようとした。 そして俺は、口を開けて深呼吸を繰り返す彼の顔をじっと見下ろしていた。
「拓也、今すごく苦しかったよ」
彼は険しい顔をして俺に苦情を訴えた。
その時、誠のふっくらした頬は真っ青だった。でもそれはきっと幻想的なブルーのライトが彼の姿を照らしていたせいだろう。
「誠がずっと寝てるから……俺、淋しかったんだよ」
俺は小さくそう言って彼の胸に顔を埋めた。頬に感じる誠の肌はいつも通りスベスベだった。
誠はこの時、俺の心臓が大きく高鳴っている事に気付いていただろうか。
「ごめん、淋しかった?」
誠は寝起きの掠れた声でそう言って、俺の髪をそっと撫でてくれた。
俺は頭部に感じるその指の感触が気持ちよくて、だんだん興奮してきた。
退屈していた唇で彼の乳首を吸うと、誠がまた息を呑んだ。 そしてその時、腹のあたりに彼の硬いものが触れた。
俺は柔らかい舌で何度も彼の肌を味わい、やがて震える唇で小便くさい彼自身にキスをした。
初めてのラブホテルは、スリル満点だった。
END

トップページ 小説目次 真夜中の電話 カミングアウト 前編