初恋の予感
 今日は学校の授業が終わった後、同じクラスの仲間と一緒にカラオケボックスへ行った。
何曲も続けて歌ったせいか、少し喉がヒリヒリした。
俺は青い空を見上げて大きく息を吸った。初夏の太陽は強い光を放って乾いた地面を照らしていた。
仲間たちと別れて細い道を曲がると、目の前に静かな住宅街の景色が広がった。
歩道の隅には色とりどりの花が植えられ、その花たちは生温かい風に吹かれて揺れていた。
電信柱の影は長く伸びていた。そしてゆっくりと歩く俺の影も随分と長くなっていた。
道の両脇には一軒家がズラリと並んでいた。もう一度大きく息を吸うと、どこからかカレーの匂いが漂ってきた。
腕時計の針はもうすぐ午後6時を示そうとしていた。おいしそうなカレーの匂いを嗅ぐと、突然腹がグーッと音をたてた。
早く家へ帰ってご飯を食べたい。
そう思った時、正面に自宅の青い屋根が見えてきた。
俺の家は石造りの塀で囲まれていた。そこに寄り掛かる人影がない事を知った時、俺は心からほっとしていた。
中学2年に進級して、今日でちょうど3ヶ月になる。どうやら彼は3ヶ月目にしてやっと俺の事を諦めてくれたようだった。
俺の頭の中にはカラオケボックスで最後に歌った曲がいつまでも流れていた。
そのメロディーに合わせて鼻歌を歌うと、なんだかとても楽しくなってきた。
石造りの塀が目の前に迫ってきた時、ズボンのポケットに手を入れてそこから猫のキーホルダーを取り出した。 歩道の上を駆け出すと、家の鍵とキーホルダーがぶつかり合ってチリンチリン、と小さく音をたてた。
ところが、楽しいのはそこまでだった。
門をくぐって玄関のドアの前に立った時、突然右手に人影が現れたからだ。

 「高宮くん、お帰り!」
突然現れた人影に声を掛けられると、あまりにも驚いてキーホルダーを地面に落としてしまった。 乾いた土の上に小さな猫が叩きつけられた時、ドカッと鈍い音があたりに響いた。
俺を驚かせた人物は慌ててキーホルダーを拾い上げ、それをすぐ俺に渡そうとした。
「はい、これ」
キーホルダーを掌に乗せて差し出したのは、同じクラスの東山だった。
俺の考えは甘かった。彼はまだ俺を諦めてはいなかったのだ。
彼は制服を着てそこにいた。 白いポロシャツの襟は立ち上がり、ダークグレーのズボンにはシワ1つ見当たらなかった。
童顔で、中肉中背で、肌が真っ白で、清潔感溢れる14歳の少年。
その少年は放課後になるといつも自宅の前で俺を待ち伏せし、なんとも妙な事を口走るのだった。
「高宮くん、大好き。お願いだから僕と付き合って」
ヘラヘラ笑ってそう言われると、本当にげっそりした。
柔らかそうな髪が風になびき、ぽっちゃりした頬は愛らしく、くっきり二重の目は輝いている。 そんなまともな少年が、こうしてまともじゃないセリフを俺に投げ掛けるのだから。

 彼はいつも石造りの塀に寄り掛かって俺の帰りを待っていた。 今日はその姿が見えなくてほっとしていたのに、塀の内側で待っているなんてとんだフェイントというやつだ。
ヘラヘラと笑う彼を見ていると、俺はだんだん腹が立ってきた。
いったい何の権利があってこんな嫌がらせをするのか、俺には見当もつかなかった。 彼は俺に一目惚れをしたと言い張り、この3ヶ月間毎日家へ通って来ていたのだ。しかしそんな事は、俺にとって迷惑でしかなかった。
「いい加減にしろ。さっさと帰れよ!」
俺は彼の手からキーホルダーをむしり取り、乱暴な口調でそう言ってやった。 しかし彼はそんな事でひるむような奴ではないのだった。
「帰る。ちゃんと帰るよ。でもその前に僕と付き合うって約束して」
彼は長い髪を両手でかき上げ、笑顔を絶やさずにそんな無茶な要求をした。
俺は青い空を見上げてため息をついた。
どうして俺はこんな奴に付きまとわれているんだろう。
眩しい太陽に問い掛けてみても、もちろんその答えが返ってくる事はなかった。
「僕、高宮くんの事が好きなんだ。一目見た時から大好きになっちゃったんだ。 お願い、なんでもするから僕と付き合って。僕は高宮くんのためならなんでもするから」
東山は更に力強い口調で告白を続けた。
彼の背後に広がる庭の芝生は青々としていた。そして俺たちの間には小さな石ころが転がっていた。
俺は連日訪れる東山に嫌気が差して、その石ころを思い切り蹴った。するとそいつは自宅を囲む塀に当たって歩道の上へ飛び出していった。
「お前、本当になんでもするんだな?」
東山を睨みつけてそう言うと、彼は長い髪を揺らして大きくうなずいた。
怒りが爆発しかけていた俺は、こうして彼に無理難題を突きつけたのだった。
「じゃあ、そこでおもらしして見せろよ。なんでもするっていうなら、やってみろよ!」
気が付くと、俺は大きな声でそう叫んでいた。

*   *   *

 東山の顔から笑いが消えた。彼は困った顔をして俯いていた。今にも泣き出しそうなその顔を見た時、俺は激しく動揺していた。
初夏の太陽は俺を責めるように雲の陰に隠れ、強い光で地面を照らす事を放棄した。
俺はそこにいる事が耐えられず、玄関のドアに近づいて即座に鍵穴へ鍵を差し込んだ。
「どうせできないんだろう? だったらもう帰れ!」
白いドアに向かってそう叫んだ時、一瞬胸に鈍い痛みを感じた。俺は自分に戸惑っていて、早くそこから逃げ出したかった。
「そこでおもらしして見せろよ」
そんなセリフがスラスラと口から飛び出した事に、自分自身がすごく驚いていた。
いったい俺は何故そんな言葉を口走ったのだろう。
俺はただ彼に無理を言って自分を諦めさせたいだけだった。 つまり、なんでもいいから彼に絶対できない事を要求すればよかったのだ。
今すぐ百万円持ってこいとか、逆立ちして町内を一周して来いとか。 それでもよかったはずなのに、俺は気付くとおもらしという言葉を口にしていた。
普段滅多に使わない言葉が、何故こんな時になって飛び出したのか。俺は自分が分からなくて、本当に戸惑っていた。
俺は鍵を右へ回してドアの取っ手を引こうとした。するとその瞬間に、とんでもない事が起こった。

 シャーッという音が突然背後に響き、あまりに驚いて取っ手をつかむ手が滑った。
まさか? ウソだろう?
心の中でそう叫んではみたものの、耳にはたしかにその音が聞こえていた。
俺は恐る恐る後ろを振り返った。その時は手も足も思うように動かなかったけど、なんとか首を回す事だけはできたのだ。
するとそこにはまともじゃない現実が存在していた。東山は塀の内側に立っておもらししている最中だったのだ。
俺が見た時、彼のズボンはすでにびっしょり濡れていた。
ダークグレーのズボンには股から太ももにかけて真っ黒なシミができ上がっていた。 ズボンの内側から更に水が溢れ出し、黒いシミはますます大きくなっていった。
ズボンに吸収しきれない水は日差しの当たらない地面にどんどん流れ落ち、見る見るうちに乾いた土が湿っていった。
こいつ、何してるんだよ!
俺はパニック状態になり、とにかく彼に駆け寄った。
湿った地面に足を踏み入れると、意地悪な太陽が急に復活して足元に広がる水たまりをキラリと輝かせた。
「バ……バカ! やめろよ! 早くやめろって!」
俺は大きく叫んで東山の肩を揺さぶった。ずっと俯いていた彼がゆっくりと顔を上げたのは、まさにその瞬間の事だった。
「高宮くん……これで本当に僕と付き合ってくれる?」
彼は涙をいっぱいためた目で俺を見つめ、ひどい鼻声でそう言った。初夏の太陽は俺を責めるかのように大粒の涙をキラリと輝かせた。
するとその時、塀の向こうを歩く人の笑い声が響いてきた。 俺はとっさに東山の腕を引っ張り、素早く玄関のドアを開けて彼を家の中へ連れ込んだのだった。

*   *   *

 東山は引きずられるようにして俺の後をついてきた。
少し前にカレーの匂いを嗅ぎつけた鼻が、今度はわずかなアンモニアの匂いをキャッチしていた。
俺は東山を引きずってギシギシと軋む廊下を駆け抜け、すぐに彼を自分の部屋へ押し入れた。
「はぁ……はぁ……」
自室のドアに内側から鍵をかけた時、俺の息はひどく乱れていた。 走った距離はほんの数メートルだったのに、マラソンを終えた後のように息が弾んでいたのだ。
東山は日の当たらない部屋の真ん中に立って俯いていた。彼に近づいてそっと顔を覗き込むと、ぽっちゃりした頬に涙が一粒零れ落ちた。
「泣くなよ。俺が悪かった。頼むから、泣かないでくれ」
そう言って肩を揺さぶると、彼はきつく唇を噛んで涙を止める努力をした。
殺風景な部屋の中にはアンモニアの匂いが充満していた。 ズボンの黒いシミにそっと触れると、指先に少量の温かい水がまとわり付いた。
俺の気持ちに大きな変化が起きたのは、まさにその瞬間の事だった。
ズボンをびっしょり濡らして立ち尽くす彼を見ると、俺は異常に興奮してきたのだった。
いじらしいその姿に股間を熱くして、ドキドキしながらその様子を観察している自分がそこにいた。
東山のズボンは隠しようのないほど濡れていた。そして俺の股間は隠しようのないほど膨らんでいた。 すごく興奮して下半身がむず痒くなり、すぐにオナニーを始めたい気分になった。
俺はその時やっと分かったのだ。自分が何故彼におもらしを強要したのか、その理由がやっとやっと分かったのだ。
童顔で清潔そうな14歳の少年。俺はその少年がおもらしする様子を、どうしてもこの目で見てみたかったのだ。

 擦り切れた畳の上に、ポタポタと小さな雫が零れ落ちた。 一瞬まだおもらしが続いているのかと思ってドキドキしたけど、それは堪えきれない彼の涙の雫だった。
「なぁ、泣くなよ。今ズボンを脱がせてやるからな」
俺は優しく彼に囁いて、革のベルトに手を掛けた。しかしその時彼が遠慮がちにその手を振りほどいた。
彼の背後には姿見があって、そこにはおもらしした少年の後ろ姿が映し出されていた。
少年の背中は少し丸まっていて、ポロシャツの襟がわずかに立ち上がっていた。 四角い姿見は、きっとそのうち白くて小さな尻を映し出すに違いなかった。
「どうして? 脱がなきゃダメだろう?」
見つめる彼は、声もたてずに泣いていた。彼はわずかに首を振り、「恥ずかしい……」 と蚊の鳴くような声でつぶやいた。
するとまた畳の上にポタッと一粒の涙が零れ落ちた。涙に濡れた彼の頬は、ほんの少しだけ赤く染まっていた。
俺は彼を愛しく思った。頬を染めて恥ずかしそうに俯く彼が、すごくいじらしくて素敵だったからだ。
「じゃあ、目をつぶってろよ。俺がいいって言うまで目をつぶってろ」
くっきり二重の目が、不安げに俺を見つめた。赤く染まった頬に触れて涙を拭き取ってやると、その目がゆっくりと閉じた。

 俺は薄暗い部屋の中に立つ彼をじっと見つめた。
彼はしっかりと目を閉じて唇を噛み、黙って畳を踏みしめていた。
もう一度ベルトに手を掛けると、あっさりとそれを外す事に成功した。 小さく響くベルトのバックルの音が、俺をますます興奮させた。
ゆっくりとジッパーを下ろし、ポロシャツを捲り上げてズボンのウエスト部分に手を掛けた。 すると彼はビクッと動いて一歩後ろへ退いた。
高まる興奮を抑えてゆっくり濡れたズボンを下ろしていくと、姿見に映る少年のズボンも同じ速度で下ろされていった。 更に途中から、白いブリーフもズボンと重なって一緒に下りてきた。
するとその内側にあるものが少しずつ少しずつ目に入ってきた。震える指先には彼の肌の弾力が微かに伝わってきた。
最初は黒っぽいヘアーが見え、やがて眼下に彼の羞恥心をくすぐる物体が見えた。そして姿見には白く小さな尻が映し出された。
俺は一旦ズボンを持つ手を止め、彼の大事なものに見とれた。それは少量のヘアーに守られて小さくしぼんでいた。
東山はきつく目を閉じていたけど、俺の視線をそこに感じたようだった。その証拠に、彼の右手がそっとその部分を覆い隠した。
彼のそれはしぼんでいたが、俺のそれは最大に膨らんでいた。
俺の興奮は高まるばかりで、いやらしく立ち上がったものの先端が綿のパンツと何度も擦れ合った。

 それから一気にズボンを引きずり下ろし、東山の下半身を丸裸にした。細い太ももに残るおしっこは、薄闇の中で微弱な光を放っていた。
柔らかそうな髪と、ぽっちゃりした頬。恥部を隠す右手と、白くて小さな尻。そして太ももに存在する微弱な光と、足首まで落ちてしまったズボン。
彼のすべてが俺の胸をぎゅっと締め付けた。それはきっと、初恋の予感だった。
たっぷりおもらしした後、頬を染めて下半身をさらけ出す彼。
俺はそんな彼に思わず一目惚れしてしまったのだった。
END

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