夕立ち
 僕は従兄弟の良ちゃんとプールに入って遊んでいた。
頭の上には明るい太陽があって、水遊びをする僕たちを照らしていた。
大きな四角いプールの中には、僕と良ちゃんだけしかいなかった。そしてプールの周りにも誰もいない。 緑がいっぱいの木に囲まれたプールは、その時僕たち2人だけの物だった。
「良ちゃん!」
僕は水の中を走って、良ちゃんの背中に飛びついた。すると良ちゃんは振り向いて僕の頭をつかみ、思い切りプールの底に沈めた。プールの床は綺麗な水色だった。
「苦しい」
良ちゃんに沈められた僕は急いで水の上へ這い出て濡れてしまった髪をかき上げた。 彼はそんな僕を見つめて大きな声で笑い、今度は両手で僕を抱きしめてくれた。
良ちゃんは僕と4つ違いの従兄弟だ。彼は僕よりずっと背が高くて、体つきはもう大人だった。 彼は僕と2人きりの時だけこうして僕を抱いてくれる。僕は彼に抱きしめてもらうとすごく安心する。
「翔ちゃん、泳げる?」
「泳げない」
僕が彼の問いかけにそう答えると、良ちゃんは僕の両手を持って後退し始めた。
「足をバタバタやってごらん。引っ張ってあげるから」
「うん」
僕は不安だったけど、良ちゃんの言う通りに彼の手をつかんで足をバタバタしてみた。 すると僕の体は見事に水に浮いて、良ちゃんに引っ張られながらスイスイと泳ぐ事ができた。
「翔ちゃん、泳げるじゃん」
良ちゃんはそう言って、どんどん僕の手を引っ張っていった。
僕は魚になったような気分で、とても嬉しかった。

 その後僕たちは、2人きりで水中鬼ごっこをしたりプールに潜ったりして仲良く遊んだ。
太陽が眩しくて、気がつくと僕たちの肌は随分日に焼けていた。
その時はあまり不思議に思わなかったけど、僕たち2人は裸でプールの中にいた。
海水パンツも普通のパンツも何もはかずに、でもごく普通に泳いだり潜ったりを繰り返していた。
そしてしばらく遊んでいると、僕は途中でおしっこがしたくなってしまった。
でも、プールの外を見回しても緑の葉っぱしか見えない。近くに建物は見当たらない。 そして良ちゃんは少し離れた所で僕を手招きし、「ここまで泳いでおいで」と言っている。
まぁいいや。
僕はそう思い、プールの中でおしっこをした。プールはすごく大きいし、水もたっぷり入っていた。 僕が一度おしっこをしたところで、絶対誰にもばれないはずだった。

*   *   *

 「翔ちゃん、起きて」
僕は良ちゃんの声に反応し、彼の顔をじっと見つめた。
良ちゃんは優しく微笑みながらパッチリした目で僕を見下ろし、「おはよう」と一言言った。
良ちゃんの短い髪は微かに濡れているようだった。それはきっとプールで遊んだせいだとその時の僕は思っていた。

 青い闇の中でテレビが小さく音を鳴らしていた。そしてその光が、暗い部屋の中の僕と良ちゃんを照らしていた。
今のは夢だったんだ。僕はすぐその事に気付いた。
ベランダの向こうが暗い。テレビの光に照らされた部屋の中を眺めると、そこはたしかに僕の家の茶の間だった。 柱時計も、本棚も、テーブルも、全部たしかに僕の家の物ばかりだった。
僕はその時、まだ半分寝ぼけていた。でも考えると少しずつ少しずつ記憶が蘇ってきた。
今日の朝、パパとママは旅行へ出かけたんだった。2人はこれから3日間帰ってこない。
中学生になった僕は、夏休みに1人で留守番をしていたのだった。
その時僕は、自分が革のソファへ横になっている事に初めて気がついた。また少しずつ記憶が蘇ってくる。 僕はさっきまでソファに寝転がってテレビを見ていた。そしてその後うたた寝してしまったようだ。
でも、どうして良ちゃんがここにいるんだろう。僕はまだ、その事についてはよく分かっていなかった。
「あっ……」
僕はその時になってやっとパンツが生温かく湿っている事に気がついた。
急いでソファの上に起き上がると、微かに揺れたソファはムギュッと音をたてた。その時にはもうショートパンツの股の辺りに大きなシミができていて、 ムギュッと言った革のソファの上は水びたしだった。

オネショしちゃった。

やっと頭がその事を理解し、両手でショートパンツのシミを隠したけど、そんな事をしたってもう遅すぎる。
良ちゃんは床に敷かれたカーペットの上に座り、僕の膝の上に手を置いた。 彼はオネショに気付いて僕を起こしたに違いない。

 「ほら、立って」
チビな僕は良ちゃんに両手をつかまれ、あっけなく床の上に立たされてしまった。
夢の中ではこうしてスイスイ泳いでいたのに、現実は厳しかった。
ショートパンツから温かい水がポタポタと滴り落ちる。
ほっぺたが熱い。部屋の中が暗くてよかった。良ちゃんにりんごのようなほっぺたを見られなくて済むからだ。
「パンツ脱がなきゃね」
良ちゃんはそう言って、僕のショートパンツとブリーフをさっさと脱がせてしまった。
僕のオネショは今始まった事ではない。この世に生まれて13年間、オネショをしなかった日の方が確実に少ないのだから。
でも良ちゃんにはその事を知られたくなかった。 いつかはばれる日が来るかもしれないと思っていたけど、できればその前にオネショを治したかった。
でもまさか、今日良ちゃんが家へ来るなんて思いもしなかった。
僕は油断していた。いつもは眠くなってきたらオネショ防止のためにすぐトイレへ行くのに、今日は1人きりだからついそれをさぼってしまっていた。

 ちょうどパンツを脱がされて僕の下半身が裸になった時、突然テレビの白い光が僕の股間にぶら下がる物を明るく照らした。
水が滴る僕のそれは、しっかり硬くなって上を向いていた。眠りから覚めた時は、いつもこの状態だ。
良ちゃんは僕のを見てちょっと笑った。
僕は昔から従兄弟の良ちゃんが大好きだった。良ちゃんは背が高くてかっこよくて、優しい目をしていて、小さい頃から1人っ子の僕を本物の弟のようにかわいがってくれたんだ。
「朝立ちじゃなくて、夕立ちか」
「え?」
「さっき夕立ちがあったんだ。すごく激しい雨が降ったんだよ。気付かなかった?」
良ちゃんは硬くなって上を向いている僕の物とソファの上の水たまりを交互に見比べた。 そしてその後優しく微笑みながら僕を見下ろし、立ち上がっている僕の物をツン、と指でつついた。
「翔ちゃんはきっと夢の中で夕立ちに遭ったんだね。こんなに濡れちゃって、僕が傘を持ってれば貸してあげられたのに……ごめんね」
良ちゃんはそう言って、僕の両手をぎゅっと握り締めてくれた。それは夢の中と同じだった。
僕は彼のこういうところが好きだった。昔からこうだった。僕が何か失敗しても、彼はいつも優しく僕を包んでくれた。
もうベランダの外はすっかり夜で、茶の間も真っ暗だった。でも良ちゃんは部屋の電気を点けようとはしなかった。 それはきっと、僕のほっぺたが真っ赤になっている事を知っているからだ。 良ちゃんは、絶対に僕に恥をかかせたりしない。昔からずっとこうだった。
「ねぇ、僕……良ちゃんが好き」
言っちゃった。ずっとずっと良ちゃんの事が好きだったけど、とうとう言っちゃった。 好きな人の前でオネショして、濡れたパンツを脱がされた後にこんな告白をしてしまった。 僕は恥ずかしくて、もう良ちゃんの顔を見ていられなかった。
「そんな事知ってるよ」
良ちゃんはそう言って僕と手を繋ぎ、そのままお風呂場へ連れて行ってくれた。 お尻も何もかもが全部丸出しで、やっぱり少し恥ずかしかった。
「良ちゃん、どうして家へ来たの?」
僕は彼の手を強く握りながら恥ずかしさを覆い隠すようにそんな質問をした。すると彼はしごく当たり前な事を話してくれた。
「翔ちゃんのママに頼まれたんだ。3日間翔ちゃんが1人きりだから、泊まりにきてって」
「ふぅん……」
それからすぐにお風呂場の透明なドアが見えてきた。僕はそのドアの前に立ち、良ちゃんの手で遂に全裸にされてしまった。
 
 僕はその後良ちゃんと一緒にお風呂に入った。
夢の中で見たプールみたいに広くはなかったけど、裸になってバスタブの中で良ちゃんとしばらく遊んだ。
あれは正夢だったのかな。僕はお湯に浸かりながら、ちょっとだけそんな事を考えていた。
END

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